K様(県南部)
「木づかい」と「気遣い」の両方に満足しています
K様(県南部)
「明治五年に竣工し、増改築が繰り返された家だったものですから、そろそろ建て替えか、全面リフォームか、何らかの工事をしなければと考えていました。その時には平成五年に伐採し保管していた庭木のケヤキを大黒柱に、解体した古材も何らかの形で、家作りに生かしたいという希望がありました。
ところが一年ほどかけてモデルハウスめぐりをした際、「庭木や古材を生かした家作り」についてそれぞれの担当の方に質問してみるのですが、どの会場でも色よい返事は得られませんでした。家づくりが行き詰まってしまった感があった昨年の二月、新聞で「木とくらしの相談所」オープンの記事を見て、「森林組合が住宅分野に関わっているのなら、ひょっとして相談にのってくれるかもしれない」と思い、尋ねてみました。当日の当番である長澤紗織先生が、気さくに、なおかつ熱心に話を聞いてくださっただけでなく、相談後すぐに江刺の自宅に足を運んでくださる対応の早さに感激しました。
四月初旬の寒風吹く中でのケヤキ材の調査、またほこりが積もる屋根裏にのぼっての梁材の確認など、私たちがイメージしていたよりもはるかに突っ込んだ事前調査に、家族のみんなが先生を信頼するようになっていきました。

約二ヶ月間の下準備を経て、長澤先生から最初の計画案が提示され、「庭木、古い木をはじめとする県産材の美しさを生かす」「旧家屋も残す」「農機具等を収納しやすい小屋を作る」など、八項目からなる案のすべては変更されることなくそのまま生かされています。
正式にプランが固まった後、平成十四年二月に、庭に寝かせておいたケヤキ材を引っ張りだして紫波町の森林組合工場で製材が行われました。古く黒ずんでおり中が腐っている恐れもあると言われていたのですが、鋸を入れてみたところびっしりと目のつまった木肌があらわれとても感動しました。「今ならば三○○万円以上の価値がある」と言われ、改めてケヤキ材を捨てることなく大事に保管していてよかったと思いました。
四月からはいよいよ旧家屋の一部解体がはじまりました。残して改修する部分は大工さんが手作業で、そのほかの部分は機械で壊したのですが、機械壊しでも使えそうな木材が表れたときはその都度作業を止め、木材を分けるなどていねいな解体が行われました。四月には45cm角のスギの柱を大人四人掛かりでトラックから降ろし、六月は再利用する古材を私たちと長澤先生で手洗いし、八月は『上棟式』を行って餅をふるまうなど、建築過程の随所で思い出深い作業に何回も出会うことができました。
旧家屋の改修部分は天井板を取り払い、梁をあらわしにして過去の改修時に切られてしまった大黒柱を復活させ、黒く色塗りをし、広い土間たたきに戻してやったものです。天井の見える部分にはヨシを張り、照明は裸電球にするなど、昔ながらの雰囲気を大事にしました。
八月に完成したのですが、土間を見ながら、長い時間小上がりに腰をかけて過ごす人が多いです。訪れるみなさんが『時を忘れる』といってくださるこの空間が、私たちも大好きです。
新築の部分は六月の整地・基礎工事からはじまり、骨組みの完成、内部の仕上げの後、12月に全て完成しました。土台には頑丈なクリ、柱は軽くて縦の力に強いスギ、梁材は横の力に強いアカマツ、ウッドデッキには水に強いヒバと、用途に応じて木を使い分けています。委託加工したケヤキの大黒柱と、小屋の増築のために伐採されたエンジュの庭木も、この新築部分に使われています。また台所には既製品ではなく、ナラの無垢材で作ったオリジナルの流し台を作りました。これだけ木を使うと『ゴテゴテ』したくどい感じになるかもしれませんが、そこは長澤先生の設計ですっきりとまとめていただきました。

西側の畑越しに見える焼石岳の眺望を生かしたくて、窓枠を『あと10cm、あと1cm、上、下』とみんなでやったのも楽しかったですね。大工さんも全然いやがらずにつきあってくださって、感謝しています。またテーブル材を沢内村の倉庫から、自分たちで選んだのも楽しかったですね。自分で選んだテーブルに座り、こだわった窓の景色を眺める気分は最高です。
『木とくらしの相談所』に住宅建築を依頼してよかったことは、作る過程を私たち建主にわかりやすく見せてくださることです。建築前の事前調査からはじまり、解体、基礎工事、木工事、仕上げにいたるまで、工事の過程を長澤先生が逐一説明してくれました。特に木材については、製材工場に三回もつれていってくださり、間違いのないところから部材を納入していることが実感できました。工程から生産地まで、私たち建て主が自分の家の建築について、いつの間にかよその人にも詳しく説明できる知識を付けていました。これも『木とくらしの相談所』がガラスばりの家造りをしているからであって、そのことは作る側と建てる側双方の信頼感醸成にもつながっています。
当初は『建築士』という肩書きに対して、高度な技術をもった専門家というイメージが強かったのですが、水回りの使い勝手や作業小屋の配置など、実用性に重きをおいて細かく対応してくださいました。木材生産者、建築の専門家、建主の三者が情報を共有し、工程や金額をオープンにしながらみんなで作り上げる家の建て方に満足しています。この方法がもっと広まって、『裏山の木で家をつくる』ような昔ながらの家の作り方が、現代の生活者視点やデザイン技術を併せ持って蘇ることを期待します。」
「二十数年間で最もやりがいがありました」
長澤 紗織先生(矢巾町)
木が好きで、木を生かす建築をもっと突き詰めたくて、『木とくらしの相談所』のスタッフに参加させていただいたのですが、その中で最初の担当物件がK邸で、あらゆる木の使い方をすることとなり、大変勉強になりました。
最初にK様の旧家屋を見せていただいたときに、「これは絶対に壊したくない」と思いました。旧家屋を最初に建てた大工さんの気持ちを考えながら、素直に昔に返すつもりで一部リフォームを行う一方、新築にも古材を使い、旧家としての歴史を残すよう努めました。
今回の工事は、予算と工事内容を考慮した上、工種毎(基礎工事、木工事、建具工事など)に専門業者19社に分離して発注する『直営』工事としました。一般の方にはあまりなじみがない言葉かもしれませんが、この方法の良いところは、いい職人さんに直接工事を頼むことができ、工事にたずさわった人たちの顔が見える事と、納得のいくまで細部にまで入り込めることです。結果的にそのことがコストダウンにもつながりました。
『直営』の場合、スケジュールや予算のまとめは建築士がアドバイスを行うことになり、業務内容は増えるのですが、予算内で納得のいくものを作るという明確な目的がありますし、お施主様と一緒に家造りをする楽しみがありますから、さして苦になりません。
現場では予期しない事がつきものです。大黒柱の寸法単位を寸からcmに直すときに間違えて設計より大きい柱が入ったり(その後製材しなおしてもらい、ひきなおしてもらった余り材で玄関の床板ができました。)、新築工事のために厩(うまや)を解体している最中、地下にとんでもなく大きい家畜の尿タンクがあることがわかり、くみ取りに大騒ぎをしたりと。
今回の工事は、旧家屋を一部解体し、その古材を使って新築部分に活かす設計で、新旧相互が引き立てあうようこころがけました。木材も樹種ごと、産地ごとに表情が異なり、それを組み合わせながら一軒の家をお施主さまと一緒につくりあげていく楽しさを味わいました。
住宅の建築には、予算、工期などさまざまな制約がつきものです。その中で建て主の方のご希望をかなえていくのが私たちの仕事ですが、住む人にも環境にもやさしい家づくりに『木』というキーワードが欠かせないと思っています。これからも大工さんや県森連の方と一緒に、『木が生きる家づくり』について研鑽を積んでいきたいと思っています。」
「今までとおり、 気負うことなく大工の仕事を行います」
伊東さん(滝沢村) ・遠藤さん(玉山村)
「解体工事から改修、新築まで手がけさせてもらいました。解体材をどのように生かすか、現場に入った県産材をどのように刻み、建てるかを判断するのは自分たちの仕事です。出来上がる家は昔風の家ですが、もともとそういった家造りを長い間行ってきたので、今回に限って特別に何かを対処しなければならないということはありませんでした。
木の節を隠すのか、見せるのか、組み上がった部分はあらわしなのか、隠れるのか、反ってしまった木を返品するのか、切ったり刻んだりして使うのか。手間といえば手間かもしれないけど、かんな掛け、刻みから全て手作業で行う私たちは、それが大工本来の仕事だと思っています。
木工事は全部で8ヶ月間かかったのですが、ずっと二人だけでやってきました。工期に余裕があったのでできたことですが、短期間で多くの人手を投入するか、少人数で長期間工事を行うのか、最後は合計の人工数ですから、工事費はさして変わりないと思います。
後は建主さんの希望に一○○%応えるということでしょうね。私の家ではなくて建主さんの家ですから。そのために私たちの腕が必要であれば喜んでお使いください、ということですかね。建て主さんの希望をかなえるために建築士さん、森林組合さん、さまざまな職人さんがいるわけだし、みんなの知識や技術を組み合わせてこそ建て主さんの希望の家ができるわけですから。」
K邸建築の経緯
- 平成5年
自宅庭のケヤキを伐採する
(いずれは自宅の建築材として活用するつもりで) - 平成12年頃
自宅新築を念頭にモデルハウス巡りをされる
→庭木、古材の活用方法で行き詰まる - 平成13年2月
盛岡市「木とくらしの相談所」を訪れる
長澤紗織先生と対面、木の使い方等について相談 - 平成13年4月
長澤先生、「相談所」スタッフが初めてK邸を訪れる
ケヤキ材の現況調査などを行う - 平成13年5月
最初の設計プランが長澤先生から提示される
旧家屋の半分を改修して残し、なおかつ新築部分を付け加える
基本案が提示される
(この後、週一回程度の打ち合わせが連続して行われる) - 平成13年11月
K様と長澤先生が「基本設計委託契約」を締結される - 平成14年2月
庭木のケヤキ材が紫波町の製材工場で加工される(K様立会) - 平成14年3月
最初の工事である、作業小屋の増築工事が行われる - 平成14年4月
旧家の改築工事が始まる
スギの大黒柱が搬入される
K様、県内および秋田県の製材工場を見学する - 平成14年5月
厩が解体される(地下尿タンク発見)
K様ご祖父 逝去される(百歳) - 平成14年6月
新築部分の基礎工事 スタート - 平成14年7月
解体材をK様と長澤先生とで一緒に磨く
新築工事の上棟式を行い、近所の方が大勢みえられる - 平成14年8月
旧家の改築工事 完成する - 平成14年8〜10月
新築の内部工事が進む
仕上げのための各種木材が搬入される
(スギ、カラマツ、ヒバ、ケヤキ、ナラなど多種多様) - 平成14年11月
K様と長澤先生が一緒に沢内村でテーブル材を選ぶ - 平成14年12月
新築工事が完成、引渡される

